湖のほとりで


 海に浮かぶ、ひとつの島。
 そこはかつて、「戦場」に指定された島だった。
 ――プログラムという名の、戦場に。
 細長い、やや大きめのその島は、電流を流した金網で、2つに区切られた。
 そして、その北側の半分は――地獄と、なった。

 島の中央あたりに、湖があった。
 夕暮れには綺麗なオレンジに染まる、なかなか広い湖。
 しかし、あるときを境に、島の人々は、そのオレンジを綺麗だとは言わなくなった。
 その湖は、血に穢されていたから。
 湖で眠る生徒がいたわけではなかったが、島の人々は言った。
 ――あの湖は、血を吸ってあんなに輝くのだと。
 朱に輝く湖は、何も語らない。

 一人の女が、夕日に燃える湖をながめていた。
 物好きな島の住人が、声をかける。
 ――この島は、あの「プログラム」の開催地に指定されたんだ――。
 女は無視して、湖面に目をやったまま。
 やがて気まずくなった島民が立ち去ると、女はバックから何かをとりだし、湖に投げ入れた。

 ――湖には、あの「プログラム」のときに死んだ男が一人、眠っている。
 そんな噂が島に広まったのは、それから少し後のことだった。