『BATTLE OF CAKE』
そのチラシを最初に見つけたのは、ルカだった。
「ん?――――こ、これはっ……!」
ハンターズギルドの壁に貼られた、一枚のチラシ。ルカの目に入ったのは、『優勝商品はナウラのケーキ食べ放題チケット!』という文字だった。
ナウラのケーキ。パイオニア2の住人であれば、誰もが欲しがる至高の一品である。それが、なんと食べ放題。
ルカは目をギラギラさせてそのチラシを見つめた。
VRシステムによる、二人一組のタッグバトル。一度に二組ずつを戦わせるトーナメント形式で、最後まで勝ち残った一組には食べ放題のチケットが贈られるとのこと。
(これはもう、参加しないと女じゃねぇっ!)
ルカは闘志に満ち溢れた顔で、ハンターズの居住区があるブロックへ向かった。タッグバトルで、商品がナウラのケーキとくれば、さそう相手は決まっている。
「ソールっ!」
ドアを叩きながら呼ぶと、ソールはすぐに顔を出した。
「あ、ルカおねーちゃん!なーに?」
三つ編みにバンダナの、小柄なニューマンの少女だ。『おねーちゃん』と慕うルカを見て、嬉しそうに顔を輝かせている。
「ソール、ナウラのケーキ食べたくないか?」
「え!?食べたい食べたいー!」
「よしよし。んじゃ一緒にトーナメント出ようなー」
ルカはそう言って、ソールに簡単なルールを説明し始めた。
「とにかく相手をぶっ飛ばせば勝ちだ、できるよな?」
「相手をぶっ殺せば勝ちだね!わかったー!」
ソールがルカの申し出を断るはずもなく、二人はさっそくハンターズギルドへ申し込みに向かった。
大会当日、二人がハンターズギルドへ着いた時には、ギルド内はたくさんのハンターズで賑わっていた。どうやら参加者は思ったよりも多いらしい。
「さすがナウラのケーキ、これだけの人を集めるとは……」
「ねールカおねーちゃん、ボク達が戦うのって誰なのー?」
「ん?あぁ、それはVRシステムに転送されてからのお楽しみだ。一応、職種とレベルだけは事前に見られるらしいけどな」
事前に作戦を立てられるようにとの配慮だが、この二人、作戦などという言葉とは縁がない。
ルカは手元の端末をいじって相手の情報を呼び出した。
「んー……レイマーとフォニュームだってさ。レベルは……あたしらと同じくらいだな」
「サライおにーちゃんとシオンちゃんだったりしてー」
ソールが、知り合いのレイマーとフォニュームの名をあげる。両者とも、二人とはごく仲の良いハンターズだ。
VRシステムでのバトルなので、バトル中の怪我やダメージが現実に残ることはないが、やはり知り合い同士だとやりにくいもの。……ソールがそこまで考えているかは不明だが。
「はは、そりゃ面白ぇ。けど、あいつらは出てないんじゃないか?何も言ってなかったし……」
参加していたとしても、これだけの人数の中で一回戦から当たる確率はごく低い。ルカはソールの予想を軽く笑い飛ばした。
が。
「……ハニュとフォニュって、まさか……」
「いくらなんでもそんな偶然はないだろ……」
ギルドの片隅で、データの表示された端末を手に、不安にかられる男が二人。
「ルカに食べ放題券プレゼントしようと思って参加したのに、初戦から当たってたら意味ないしな」
「ソールとは戦いたくないし……ルカは本気で容赦なさそうだし……」
サライとシオンは不吉な予感に肩をすくめるのだった。
そうこうしているうちに、ルカとソールの順番がやってきた。二人は人ごみをかき分けてギルドカウンターへ向かう。
「……はい、ルカさんにソールさんですね。それではVR宇宙船ステージに転送します。――Good Luck!」
ギルドの受付嬢がそう言った、一瞬の後。ルカはギルド内ではなく、見覚えのある宇宙船の中にいた。
「よし、勝つぞソール……って、いないし」
ルカは周囲を見回したが、ソールの姿はない。別々の地点からのスタートなのだろう。
『それでは、試合開始、5秒前――4、3、2、1』
ゼロ、を待たずにルカは駆け出していた。わずかに遅れて目の前の扉が開く。
「――ナウラのケーキはあたしのモノだっ!」
ソウルバニッシュの紫色の残像が、その後を追う。
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