『BATTLE OF CAKE』
「ルカおねーちゃーん……いないのぉ?」
ソールはきょろきょろと辺りを見回し、ルカがいないのを確認すると、開いたドアに向かって歩き出した。
薄暗い宇宙船の中に人気はなく、ひんやりとさみしい空間が果てしなく広がっているだけ。少しだけ、心に不安の陰が押し寄せてくるのを感じて、ソールはぶんぶんと頭を振った。
――今の自分はルカのパートナー。一人前のフォースとして、ルカをしっかりサポートしなければならない。
「よーし……まずはルカおねーちゃんを探さなきゃ……」
愛用のラビットウォンドを握りしめてそうつぶやく――と、不意に。
しゅん……かすかな音と共に、禍々しい気配が現れた。
「――っ!?」
あわてて振り向くと、不気味な紫のフォトンをまとった太刀――いや、右手を振りかざしたデルセイバーが、すぐ後ろに飛び降りて来ている。
「わ、わっ……バータ!!」
とっさに炸裂したのは、育ての親セラディス直伝の冷気テクニックだった。キィンと甲高い音をあげ、杖の先から白い冷気が迸る。
が、デルセイバーは一瞬怯んだだけで、弱った様子すら見せずに迫ってくる――何だか普段戦っている時より強くなっている気がする。
「えーっ……何で何で!?――バータ!バータっ!!」
必死に連射するが、それでも効いているようには見えない。絶体絶命。
――そのとき、横手の通路から青い人影が現れた。
「グランツ!」
デルセイバーの体内から眩い光が生まれ、部屋中にまで飛び散る。さすがのデルセイバーもこれには耐えられず、がくりと膝をつくと、紫の血溜りを残して姿を消した。
「大丈夫か、ソール!?」
「あ……シオンちゃん……」
現れた人影は、金髪にポンポンのついた帽子をのせた小柄なフォニューム。ソールの仲良し、ハンターズ仲間のシオンだ。
「ソールが参加してたなんて……おれ、知らなかったよ」
シオンは少し驚いたような顔でソールに歩み寄る。
「ゴメンね……ルカおねーちゃんが『ライバルは少ないほうがいいから、誰にも教えるなよ』って言うから……」
「……ルカらしいな。……まったく、ソールをこんな危ないことに巻き込むなんて……」
――危ないこと。
シオンのつぶやきに、ソールは思い出した――そう、今はバトルの真っ最中。自分はルカのパートナーで、つまりシオンは、敵だ。
素早く間合いを取り、ラビットウォンドをヒルデベアの杖に持ち替える。杖を目の前に構えると、ソールはにっこり笑った。
「――ごめんね、シオンちゃん」
「え、何が?……ソ、ソール?何でそんなモノ……」
「フォイエ!」
ごぉっ。杖の力で強化された火球が、シオンに直進する。
「うわっ!」
避ける暇はない。シオンは、魔力を帯びたセイバー・エリュシオンを目の前に掲げ、左側に薙ぎ払った。火球は軌道を逸らされ、宇宙船の壁に激突して弾けた――物凄い威力だ、直撃したらひとたまりもない。
何とか回避したシオンも、反動と爆風に耐え切れず、バランスを崩して尻餅をついた。
「ソール……何するんだ!!」
「何って……シオンちゃん、今はバトル中なんだよ?」
「あ……そ、そういえば……!」
ソールが襲われているのを見て、反射的に助けに入ってしまったが――そう、彼女の言うとおり、自分達は本来敵同士。
あわてて体勢を立て直そうとするが、その間を与えてくれるはずもない。
「ってことで……もぉ一発フォイエっ」
「うわ、ちょ、待っ……!」
抵抗もむなしくフォイエは直撃、シオンは武器を落として姿を消した。
丁度同じ頃、残りの二人も別の場所で鉢合わせしていた。――片方は言うまでもなくルカ、もう一人はシオンのパートナーとして参加した長身のレンジャー、サライだ。
「くそっ……さすがはサライ、一筋縄ではいかねーか……」
サライはシオンよりは賢かったらしく、ルカに発見された途端、壁の向こうに隠れてライフルでの威嚇射撃を行ってきた。
ルカの手元にライフルを越える射程の武器はなく、近づこうにも、サライは姿は見せないままで散発的な銃撃を続けてくる。ちゃんと狙ったものではないから当たりはしないが、だからといって不用意に飛び出すこともできない。
――そんなわけで、こちらの戦いは完全な膠着状態に陥っていた。
(フォトン弾のライフルに弾切れはない。それにサライのことだから、待ってても先に精神消耗するのはこっち――となれば)
勿論、突撃しかなかった。
ルカはマシンガンを取り出す。レアでもなんでもないただの赤フォトン武器だが、他ならぬサライの改造で、ルカでも扱えるようヒット修正がついている。――外さない。
「行くぜっ!!」
威嚇のつもりも込めて叫び、地面を思い切り蹴る。壁から飛び出した途端、実弾風に加工されたフォトン弾が襲ってきた。――銃マニアサライの自慢の一品、ヤスミノコフ7000Vだ。特殊効果こそないが、当たれば勿論タダではすまない。
しかしルカは、退くことなく左腕を前に押し出した。着弾の瞬間、独特の動作音とともにフォトン製のシールドが現れる。
「よしっ……!」
「嘘だろ……!?」
必ずしもうまく防げるわけではない、一か八かの回避法。しかし運はルカに味方した。サライの驚きに乗じて、ルカは間を詰める。
壁に左肩を向け、横っ飛びする形でサライの側へ回り込む――いた。
「サライ、覚悟っ!」
ダダダダッ。赤いフォトンが左右計8発、一瞬にして吐き出された。
「うわっ……!?」
退こうにも、後ろに空間はない。サライは咄嗟の判断で地面に伏せ、そのままの体制で足元を狙って撃ってきた。
「ち」
軽く舌打ちしながら跳び上がり、下向きにマシンガンを撃つ。
――仕留めた――そのつもりだった。
しかしサライは地面を転がって回避すると、反動でバランスを崩したルカに向かって発砲してきた――いや、ルカのはるか上を狙って、だ。
「へっ、どこ狙って……」
ピーン。悪態をつこうとしたルカの耳に、甲高い警報音が届く。トラップの音だ――仕掛けたのが誰かは言うまでもない。
「っ……この野郎、いつの間に……!」
「残念、後一歩。……もう少し頭を使って戦うことだね」
少し申し訳なさそうにサライが言って、ルカは発動したトラップによって氷付けになる。
無抵抗になったルカが止めを刺されるまで、そう時間はかからなかった。
continua seguente
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