4:笑顔の脅威
プログラム。
この大東亜共和国において、その名を聞いたことのない中学生はいないだろう。
水瀬中三年A組も例外ではなく、その一言で生徒たちは絶望した。
――いや、むしろそれはごく少数の生徒で、大半はまだ事態を呑み込めていなかった。
(・・・プログラム、だと!?まさかそんな・・・)
事態を正しく理解していた者も、龍哉同様、それを認めることを拒んでいた。
「それじゃ説明しまーす。・・・といっても皆さんもう分かってるみたいですけど。えー、このクラスは、今年度のプログラム対象クラスに選ばれましたー。」
すでに分かりきった事実に、しかし龍哉は愕然とした。
言葉にしてはっきり言われ、それでその事実を認めざるを得なくなった。
(嘘だ・・・そんなはず・・・)
平静を保つことは、かなり難しかった。
「はい、今「そんなわけない」って思った人。これは間違いなく、事実です。夢なんかじゃありませーん。その証拠に、ちゃんと皆さんの首に、ほら、首輪があるでしょう?それはプログラムの参加者の印、全国から選ばれた皆さんへの、プレゼントでーす。皆さんが生きているかどうかを判断してここのメインコンピュータに電波を送るという、大事な役割を担っています。だからはずしたりしないように・・・といっても絶対はずれないようにできてるんですけどね。」
高橋は明るく言って、はははと意味もなく笑う。
教室は静まり返ったままで、その笑いが不気味に響いた。
「皆さんわかりましたかー?はい、OKですね。じゃあ説明始めます。」
言い終え、一度生徒たちを見回してから、高橋は背を向けた。
黒板に向かって、再びチョークを走らせる。
普段の授業なら途端にお喋りが始まるところだが、先程の銃の効果か、誰も一言も発しない。
ただ、皆不安げにお互いを見回していた。
(プログラム・・・俺達は、殺し合いをさせられるのか!?昨日まで一緒に勉強した仲間と!?)
ほとんどが、龍哉と同じ事を思っているに違いなかった。
それほどまでに、この状況は現実味がなかった。
(・・・沙希。)
一瞬だけ目が合ったが、高橋の、
「はい注目〜。」
というセリフですぐに遮られた。
「説明、始めますよー。聞かないで後悔しても、僕は知りませんよー。」
言ってから、やはり笑みを浮かべて続ける。
「まあ、このゲームでは、後悔する暇なんてないかもしれませんけどね♪」
それはつまり、後悔するより先に死んでいる、そういうことだ。
沈黙が濃くなり、重い空気がさらに重くなった。
「まず、今皆さんがいるこの場所についてです。ここは県内のある島の一部、北側の半分でーす。ちょっと会場が広すぎるので、半分に区切ってあります。名前は言いません。興味がある人は、後で調べてください。」
カッカッとチョークで黒板を叩く。どうやら、黒板に描かれた細長い楕円のような形は、この島の地図であるらしかった。ただし、高橋が描いたのはその一部らしく、海との境を示す線は途中で途切れている。
その島らしい形の上に、縦横十本くらいずつ、直線が走っていた。
「この、「文」マークがここ、島にひとつだけの学校です。皆さんは、今ここにいまーす。そして、皆さんが殺しあっている間、僕や専守防衛軍の皆さんが待機する拠点でもあります。」
島の中央やや右下(いや南東か)、「文」マークがはっきりと印してあった。
「で、この線が何かと言うと―――この島を、10×10、100のエリアに区切ってあります。まあそのうちいくつかは海になっちゃってるんですけどね。それで、こう・・・」
言いながら、線と線の間に、1〜10、A〜Jと書き入れた。
「各エリアに、名前をつけてあります。そして、コンピュータに、二時間に一つずつになるように、ランダムにエリアを選んでもらいます。それを僕が皆さんに放送で伝えます。十二時と、六時、一日四回です。」
龍哉は、ろくに聞いていなかった。―――この現実から抜け出す方法を、必死に考えていた。
「―――例えば、七時からA−2、九時からG−8、って感じです。そしたら、その時間までに、そのエリアから出てください。」
(何とか、この島から―――)
「でないと―――」
高橋はポケットから、何か、携帯電話くらいの大きさの物を取り出し、龍哉に向けた。
「――――――!?」
全員が何事かと注目し、沙希は目を見開いた。
―――ピッ。
「・・・・・・?」
その「なにか」から電子音が鳴り、すぐに龍哉の首輪からも同じ音が流れ出した。
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