6:非情の彼女
「次、時間切れについてです。」
高橋が再び説明を始めたが、生徒たちの様子は先程までとは全然違っていた。
高橋を脅えた視線で見ていた者が、周囲の生徒たちにその視線を向けていた。
(ダメよみんな――信じられなくなっちゃ、政府の――あいつらの思うツボよ・・・!)
九条香織(女子4番)は心中でつぶやいたが、口に出しはしない。
下手なことを言えば、首輪を吹っ飛ばされるか銃で撃たれるか――とにかく、嬉しい結果にはならないだろう。
(何て奴・・・みんなを信じるな、なんて・・・殺し合いを煽るなんて・・・!)
香織は、皆を信じていた。
いや――「今の」香織は、と言うべきか。
頭脳、外見ともに校内トップクラスの彼女は、しかし普通の生徒として学校に通うことはできなかった。
自宅で家庭教師に学び、テストさえ保健室で受けることしかできない――それしか許されない。その、生まれつきの特異な性質ゆえに。
だから他の生徒とはほとんど面識がなかったが、それでも香織は皆を信じていた。
「ゲームのルールでは、生き残ることが許されるのは一人だけ、となってますが、もし二人以上が生き残っていた場合、最後に人が死んでから24時間で時間切れになります。そしたら、その時点でコンピュータから電波を送って首輪を爆発させます。」
相変わらず、意味もなくにこやかに高橋は説明を続ける。
(ふん・・・そんなことになるわけないじゃない。どうせみんな自分が一番大事なんだから・・・)
あきれたように、香織は笑みを浮かべた。
「ただし、警告音が鳴り出してから爆発までの間に誰かが死んで、一人だけになった場合はセーフです。」
(・・・誰かと生き残って、最後の最後で裏切るってのも悪くないわね・・・。)
先程とは全く違うことを内心で思い、高橋が描いた地図に目を向ける。
(でも・・・面倒ね。校舎の前で待ち伏せして少しでも減らしておこうか・・・っと、そういえば。)
すっ、と香織は手を上げる。
「ん・・・っと、九条さん・・・かな。なんですか?」
高橋はすこし首を傾けて、香織を見た。
「・・・殺しあう、って言ったよね。どうやって?身を守る武器とか、ないの?」
今の香織にとってはごく自然な質問だったが、生徒たちは一斉に警戒の眼差しを向けた。
言うまでもなく、他の生徒にとっての香織は、顔を知っている程度の「クラスメイト」である。
このゲームにおいては、不良達と並んで信用できない部類に入っているであろう。
その香織が、「やる気」とも取れる発言をしたのだ、無理もない。
だが香織は、周囲の警戒心など気にも留めていなかった。
「ああ、武器はここを出るときにわたします。説明が終わったら、専守防衛軍の皆さんがデイパックを運んできてくれます。それに、水、食料、地図やコンパスと、武器が入っています・・・入っている武器はそれぞれ違いますし、誰に何をわたすかも決まっていません。何が当たるかはお楽しみです♪」
言葉を切って、高橋は香織を見た。――探るような目で。
「・・・はい、これで説明は終わりです。防衛軍の皆さんを呼んできますので、少し待っててくださいね。・・・おしゃべりしてても構いませんよ。」
言って、高橋は教室を後にした。
(・・・あたしは生き残る・・・)
香織は――いや、香織の中のいくつかの人格のうち一つ、最も攻撃的な「彼女」は、つぶやいて不敵に笑んだ。
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