7:勇壮なる反逆
「それでは、出発でーす。名前を呼ばれたら、出口でデイパックを受け取ってから出て行ってください。それからの行動は、自由です。・・・っと、言い忘れてましたが、この学校があるエリアG−6は、最後の人が出発してから20分後に禁止エリアになりますから、すぐに出てください。それと島を区切っている金網には、高圧の電流が流れています。触ったら死にます。くれぐれも気をつけてくださいね。」
高橋はくるりと背をむけ、後ろに立っている兵士(軍服、肩にはマシンガン。同じ装備の兵士が五人)から、両手くらいの大きさの箱を受け取った。
「出発の順番は番号順ですが、最初の人だけはくじ引きです。その人から、男女交互に番号順。くじは、この中の誰かに引いてもらいます。・・・誰か、希望者いますかー?」
無論、手を上げる者はいなかった。
「んー・・・困りましたねえ・・・じゃ、僕が指名しますよ?・・・・・・9番、田上早也君。」
「・・・ッ、はいっ!」
泣きそうな声で、田上早也(男子9番)は立ち上がった。
それは、今日が九日(ちなみに十月)だから9番、という安直な思いつきだったのだろうが、その思いつきこそが早也の運命を決定したのだった。
「じゃあ田上君、くじを引いてください。」
「・・・・・・っ・・・・・・やだよっ!!」
突然、早也が叫んだ。
高橋はすっと目を細める。
「・・・田上くん、引いてください。」
今度は、一言ずつ、区切るように言った。
(・・・まずい。田上やめろ・・・!)
龍哉はあせったが、早也は続ける。
「いやだっ!俺はこんなのいやだ!・・・なあ、みんなもそうだろ!?こんなの、おかしいよっ!なんで俺たちが殺しあわなくちゃいけないんだよ・・・!!」
半泣きで、早也は叫んだ――いや、喚いた。
「こんなのおかしい、こんなのいやだっ!!おれはっ、こんなくそゲーム認めな・・・」
「・・・・・・しかたありませんねえ。」
パンッ。
足元。
「認めな・・・・・・」
肩口。
右腕。
血が床を赤く染め、女生徒の数人が悲鳴をあげた。
「・・・っぐ・・・・・・」
「それ以上言うのなら、このゲームに参加しなくても良いようにしてさしあげますよ?」
うずくまった早也に、高橋は冷たい笑みを浮かべて言った。
「っ・・・・・・」
早也は、幼い頃、両親を政府に殺されていた。
国家反逆罪による、処刑である。
それゆえ、早也は政府に従うことはしたくなかった。
たとえ――命を失おうと。
「・・・俺はっ・・・」
「・・・ん?何ですか?」
――――お前らと戦う。
「認めねえっ!!」
早也は、傷の痛みをこらえて立ち上がり、高橋に飛び掛った。
「俺はこんなの認めねえっ!!こんな・・・」
パン。
乾いた銃声が響き、生徒たちの目の前で、早也の背中が崩れ落ちた。
「・・・教師が殺しちゃいけないんじゃなかったの・・・・・・?」
九条香織の声に、高橋はやはり笑みを浮かべて、
「別に問題はありませんよ、そう言う制裁は許されていますから。・・・なるべくなら殺さないほうがいい、というだけで・・・」
返り血を浴びた顔をハンカチで拭いた。
――龍哉は呆然と、床をみつめた。
バレー部で、龍哉とは部活こそ違ったが、お調子者で陽気な早也とはごくごく仲が良かった。
いや――クラスのほとんどが、彼には好感を持っていた。
(何でだよ・・・・・・田上っ・・・なんでだよっ・・・!?)
じわじわと広がる赤い水溜り。
倒れたときの衝撃で、醜く歪んだ顔面。背中側には、丁度左胸を正確に射抜いて、大き目の穴が開いていた。
――死んでいた。
「じゃ、女子の9番、佐川さん・・・くじ、引いてください。」
高橋の、相変わらず和やかな声が響いた。
男子9番 田上早也死亡 残り39人
back
top
next