8:殺戮の意思
「さあ・・・佐川さん?早くして下さい。」
高橋の口は笑みを形作り、しかし細めた目は笑っていない。
佐川菊乃(女子9番)は、ひっ、と小さく呻いて立ち上がった。
「はい、引いて下さい」
「・・・・・・っ・・・・・・」
菊乃は怯えた様子で皆を見回し、それからおずおずと手を伸ばす。
箱の中には、小さく折りたたまれた紙がたくさん入っていた。
――席替えなんかで使う紙くじ。
そんな感じだった。
菊乃の手はかすかに震えており、最初に手が触れた紙を、まるで汚いものでも触るかのように指先でつまんで、差し出された高橋の手に乗せた。
「はい、ありがとうございます。戻っていいですよ。」
くるりときびすを返し、菊乃は小走りで席についた。
かさかさ・・・・・・
紙切れを開く音だけが空間を支配し、少しして――
「・・・女子20番、流川夜深さん。」
高橋の言葉に、皆は硬直した。
流川夜深。
腰までも届く髪をポニーテールにした、水瀬中一とも言われる美少女。
しかし誰とも関わろうとせず、いつも一人でいる。そのうえ、からんできた神山良樹をあっさりと叩き伏せたことで、最強の女――そして不良というレッテルを貼られた。
――ようするに、香織同様親しい友人がいない、このゲームに「乗る」可能性の高い人物なのだ。
その彼女が、最初の出発。
くじを引いた本人の菊乃が、一番顔を引きつらせていた。
・・・・・カタン。
静かに夜深が立ち上がり、前へ進み出た。
「・・・・・・・・・・・・」
全員が彼女に注目する。
「はい、武器と食料です。」
高橋がデイパックをわたし、夜深は受け取って軽く上下させた。
「・・・・・・行っていいのか?」
夜深の問いに、高橋はうなずきかけたが――思い出したようにわざとらしく手をたたいた(古典的なリアクションだ)。
「あ、ちょっと待ってください。」
三度黒板にむかい、島の地図を消して文字を書き始めた。
――私たちは、殺し合いをします――
「な・・・!?」
数人が、呻いた。
「これに、署名して行ってください。一応、するかどうかは個人の自由ですが・・・・・・しない人には、武器などの支給はしません。皆さんもですよ、ここをでる前に、署名を忘れないでください。」
言って、高橋は夜深にチョークを手渡した。
「しないなら、それは返してください。」
指でデイパックを示す。
「・・・・・・」
夜深はしばらく黙っていたが、不意に黒板へ目をむけ、チョークを動かした。
――流川夜深。
「・・・これでいいんだな?」
「はい、結構です。二分ごとに次の人が出発するので、そのつもりで・・・。行っていいですよ。」
それきり、夜深は振り返りもせずに去って行った。
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